大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和46年(わ)100号 判決 1971年12月08日

本籍

愛知県岡崎市花崗町一丁目一七番地

住居

静岡県浜名郡舞阪町舞阪三七九一番地

無職

小幡萬夫

明治四四年四月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官居森喜代関与取調べのうえ、次の通り判決する。

主文

被告人を徴役五月及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することが出来ない場合は金二〇、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右徴役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は静岡県浜名郡舞阪町舞阪三、七九一番地に居住し、営利の目的で継続して商品先物取引を行っていたものであるが、所得税を免れる目的をもって、昭和四二年分の総所得金額は大部分が右商品先物取引の清算益であって計四三、六三七、二四三円であり、これに対する所得税額は二四、〇七四、七〇〇円であったのにかかわらず、岡地株式会社豊橋出張所土井商事株式会社浜松出張所および大阪卸衣料株式会社浜松支店に対し右取引の委託をするに際し真実の委託者をまぎらわしくするため被告人の実名と他の架空名義とを併用してこれをおこない、その清算益金等は、その大部分を架空名義の預金あるいは無記名の証券等にかえて隠匿したうえ、所轄浜松税務署長に対し法定期限である昭和四三年三月一五日までに確定所得申告書を提出せず、もって不正の行為により右二四、〇七四、七〇〇円の所得税を免れてほ脱したものである。

(証拠の標目)

一、 佐治実作成の差押てん末書

一、 村沢昭之作成の臨検捜索てん末書及び差押てん末書

一、 渡辺且利作成の領置てん末書

一、 吉田和男作成の領置てん末書

一、 中山能男作成の現金、有価証券等現在高確認書

一、 小幡とみの大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一、 兵藤勇の同官に対する質問てん末書二通及び同人の検察官に対する供述調書

一、 垣見健吉の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び同人の検察官に対する供述調書

一、 田口雄一郎の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、 江間得二の同官に対する質問てん末書二通及び同人の検察官に対する供述調書

一、 吉野昌有の大蔵事務官に対する質問てん末書及び同人の検察官に対する供述調書

一、 鈴木忠夫の大蔵事務官に対する質問てん末書及び同人の検察官に対する供述調書

一、 山中格の大蔵事務官に対する質問てん末書及び同人の検察官に対する供述調書

一、 渡辺迪の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、 田口雄一郎、垣見健吉、井村正(二通)鈴木美夫、林伝一の各上申書

一、 加藤勝次作成の定期預金元帳等写(二綴)(3334)

一、 山口幸治作成の証明書(綴)及び普通預金元帳等写(綴)(3536)

一、 江川泰三作成の元帳等の写(二綴)、貸付信託申込書写(綴)及び証明書(綴)

一、 松村博作成の定期預金元帳等写綴

一、 萩原正信作成のお預り証券明細簿等写綴

一、 海藤武作成の預り金勘定元帳等写綴

一、 早川行男作成の顧客勘定元帳写綴

一、 落合清隆作成の株式の異動および支払配当金額についてと題する回答書二一綴

一、 山内直行、藤田好一、前田又兵衛、福田克美、岩田蒼明、門脇賢治、山川隆司、高杉正人、加藤正雄、村山聰、清水喜三郎、伊東宣久、下村一男、横河時介、真木正雄、大槻文平及び杉浦嘉明の各同回答書綴

一、 山口健太郎作成の同回答書二通

一、 三宅修夫作成の同回答書三綴

一、 永田正裕作成の写真撮影報告書

一、 兵藤勇、垣見健吉及び田口雄一郎作成の各上申書

一、 中山能男作成の調書報告書

一、 竹市肇作成の脱税額計算書

一、 柴山正彦作成の申告書謄本二通

一、 中山能男作成の調査報告書

一、 浜松税務署長作成の証明書

一、 証人柴山正彦、渡辺貫吉、平野雄二、伊能正次、藤具貞、竹市肇及び中川庄次の各証人尋問調書

一、 押収に係る符号1乃至19の各物件(昭和四六年押第三七号)

一、 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書八通並びに上申書一〇通

一、 被告人の検察官に対する供述調書五通

(法令の適用等)

弁護人及び被告人は、本件公訴事実は無罪である旨を主張し、その理由につき縷々数万言を費しているが、その多くは無意味な論述の美事な構文的配合であり、独自の偏見にすぎない。要するに弁護人ら主張の基本的な一点は、本件商品先物取引による所得は、現行所得税法上の事業所得でなく課税対象にならないということにあるところ、前掲挙示の各証拠を総合すれば、本件商品先物取引は、その態様及び利益額から見て、営利を目的とする継続的行為であり、したがって、これから生じた本件所得は所得税法上の事業所得であると認めるべきであるから、弁護人らの主張は採用しない。そこで被告人の判示所為は、所得税法第二三八条に該当するから、懲役刑と罰金刑を併科し、その刑期及び罰金範囲内において、被告人を主文の刑に量定し、刑法第一八条により右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なお情状により同法第二五条第一項により、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人の負担とする

よって主文の通り判決する。

(裁判官 相原宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例